ワーキングメモリにおける視覚的形態情報と色情報の関係

○森本 琢 菱谷 晋介

(北海道大学大学院 文学研究科)

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【目的】
現在までいくつかのワーキングメモリのモデルが提案されており,そこでは音韻的もしくは視空間的コンポーネントの存在が想定されている.一方で,それ以外に,主要な各感覚システムに関係したワーキングメモリのコンポーネントが存在するのではないかという示唆もあり(Zatorre et al., 1996),ワーキングメモリの内実をより詳細に捉えるためには,各モダリティに関連したコンポーネントの性質を明らかにすることが必要であろう.森本・菱谷は,ワーキングメモリにおける触運動的側面と視覚的側面の性質を比較するため,物体に関する形態的表象と材料的表象が分離されるのか,統合されるのかといった視点から二重課題を用いて一連の研究を行ってきた.その結果,触運動の場合は,触感的干渉は保持された触感的情報を,形態的干渉は形態的情報を選択的に妨害するという二重乖離が示され(2001日心),触運動的側面において形態的表象と材料的表象(触感)が分離されて保持される可能性が示唆された.一方,視覚の場合はそうした二重乖離は見られず,形態的表象と材料的表象(肌理)がある程度統合された形式で保持される可能性が示唆された(2001日本イメージ心理学会).
本研究では,視覚の場合において見られた,形態的表象と材料的表象(肌理)が統合されて保持されるという現象が,他の材料的要素(色)を用いた場合にも,同様に見られるのか,検討を行う.
具体的には,視覚的形態情報と色情報を同時に保持させ,その保持期間に形態もしくは色情報の処理を選択的に行わせる干渉課題を挿入した場合に,保持された各情報がそれらにどのような影響を受けるのか,実験的に検討する.もし,形態的干渉が形態情報のみを,色的干渉が色情報のみを選択的に妨害するという二重乖離が見られたならば,視覚的ワーキングメモリ内において両者は分離されていると言えるであろうし,逆に二重乖離が見られなければ両者はある程度統合されていると考えられる.

【方法】
 被験者 大学生および大学院生27名
 実験計画 実験はプライム刺激とターゲット刺激の関係(形異,色異,同)×干渉課題(形態,色,無し)の2要因計画で行われ、要因は全て被験者内要因であった.
 刺激材料  本課題では,それぞれの形態(○, △, □,◇, 70.jpg, 十から選択された)と色(マンセル表色系の基準で,明度5,彩度8に固定した上で,色相が16-17ずつ離れている6色:1R, 8YR, 5GY, 2BG, 9B, 5Pから選択された)が異なる3個の物体(各物体は縦横2.2〜2.7cm,に統一された)を1セットとした刺激(プライム用39個,ターゲット用39個)が使用された.干渉課題では,形態的課題用の刺激として形態が同じもしくは異なる二つのランダム図形(5角形)が,色的課題用の刺激として色が同じ,もしくは異なる対(マンセル表色系に基づき,明度8,彩度2 に固定した上で,異なる色対は色相が8ずつ離れたもの)が使用された.
 実験手続き 被験者はまず,注視点の後に提示される3個の物体から構成されるプライム刺激を15秒間見て,各形態と色の両方を記憶することが求められた.引き続き干渉課題が行われ,被験者は二つのランダム図形(5角形)の形態的同異判断(形態的干渉課題),または二つの色の同異判断(色的干渉課題),もしくは干渉刺激は提示されず何もしない(干渉課題無し),のいずれかを行うことが求められた.引き続き,注視点の後,ターゲット刺激が提示され最初に提示された刺激とのマッチングが求められた.ターゲット刺激とプライム刺激の関係は,色は3つとも同じだが3つのうち1つの形態が異なる場合(形異条件),形態は全て同じだが1つの色が異なる場合(色異条件),形態と色の両方が全く同じ場合(同条件)があり,被験者は3つのうちどの条件であったのかを「かたち」「いろ」「おなじ」と口答することが求められた.音声反応はマイクによってコンピュータに取り込まれ,ターゲット刺激が提示されてから回答する(「かたち」「いろ」「おなじ」)までの時間が計測された.また,一試行が開始されてから終了するまでの間,言語化を抑制するための構音抑制(サッサッと小声で言い続ける)を行うことが求められた.

【結果と考察】
正答反応時間について,干渉無し条件における反応時間の平均値をベースラインに,各干渉課題を行うことによる遅延時間を算出した(Fig.1).遅延時間に関して,同反応を除外し(形態的情報の検出処理が反映されているであろう形異反応と,色的情報の検出処理が反映されているであろう色異反応とをシンプルに比較するため),ターゲット×干渉の2要因分散分析を行った.その結果,主効果,交互作用ともに有意な効果は得られなかった(F<1).
交互作用に有意な効果が見られない,すなわち,形態的干渉が形態情報のみを,色的干渉が色情報のみを選択的に妨害するという二重乖離が見られなかったことは,ワーキングメモリの視覚的側面においては,形態情報と肌理情報の場合と同様に,形態情報と色情報もある程度統合された形式で保持される可能性を示唆するものである.本研究の結果は,ワーキングメモリの視覚的側面と触運動的側面間に質的違い(形態的表象と材料的表象の関係に関して)があるという,先の森本・菱谷の研究において得られた示唆を裏付けるものと言えよう.

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